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ルネ・ヤーコプス指揮ベルリン古楽アカデミー、RIAS室内合唱団  ベルリン大聖堂合唱団
バッハ:マタイ受難曲 BWV.244(全曲)


Johann Sebastian Bach
Matthaus Passion

Rene Jacobs

Tower Records
Amazon


録音2012年9月 テルデックス・スタジオ・ベルリン
輸入盤、 Harmonia Mundi

SACD2枚+DVD

箱はデジパックで、一番左がDVD。
DVDには録音風景。ヤーコプスのインタビュー(46分)

ブックレットにはドイツ語と英語歌詞。
1組の合唱とオケが、聖トーマス協会の後ろのバルコニーにおかれたことのライナー「Shht! Wen?」。バルコニーの写真など。

箱は厚い。ディスクを紙に入れてくれるスタイルだとここまで厚くならないが、デジパックのトレイが3つと、良質の紙が厚いブックレットなので、箱がここまで厚くなるのも、しかたなし。

初演時のように、合唱を後ろに配置したマタイ受難曲

 「マタイ受難曲」のSACDは、バット指揮の「ワンパートひとり」というSACD(レビュー)が衝撃的でしたが、本作もそれと同じくらい衝撃的なSACDでした。
 「マタイ受難曲」は2組の〈合唱+オケ〉が基本の編成です。
 通常2組は、前方の左右に配置されるのですが、本作のマルチチャンネルでは、1組がリスナーの後に配置されています。
 これは「聖トーマス教会での初演時、1組が教会の後ろのバルコニーに配置された」という研究からきたものです。
 録音でも2組は向かい合わせて演奏し、指揮のヤーコプスはそのつど前後に向きをかえながら指揮をしているのが、付属DVDで見ることができました。

後方組は、距離感のある音

 冒頭の曲から、1組の合唱とオケが後ろにいるのがわかります。
 といっても後方は、前方の合唱と同じ距離感ではありません。
 前方の合唱とオケは通常のリスニング位置なのですが、後ろの合唱とオケは、もっと後ろの方から聴こえる感じです。
 これは聖トーマス協会の後ろのバルコニーが、「24m後ろ」にあることを考慮したのでしょう。まさに、そんな感じの距離感なのです。
 録音風景では、前後の合唱はほぼ同じような距離でしたから、これはミキシングで処理したのと思われます。

 なのでポッ プスのサラウンドのような、均質な360度サラウンドではなく、後方の音がやや弱めのサラウンドです(ソロでは距離感がやや近い)。
 そのせいで、後方の合唱やオケは、ともすれば前方の音にかき消されそうにもなるほどです。
 しかし、この前後バランスの違うサラウンドが、逆にリアル。混沌としながらも、両合唱の住み分けができているのにも気づきます。

前後配置で「マタイ受難曲」が聴きやすくなった

 バッハは2組を合唱を、対話させるように、また掛け合いをするように、作曲しているところが多く、前後配置の効果は大きいです。
 導入部。前方から「見よ!」ときたら、後ろから「誰を?」と返されるところ。
 トラック27。前方でソプラノが「かくてわがイエスは捕われたり」と歌えば、後ろから合唱が鋭く「彼を離せ!」と入るところ。(ドイツ語では音楽的にキマっていますよ、このあたり)
 他にも、後ろのソリストとオケだけが、シットリと演奏しているときは、前方は後方からの残響音のみ(いつものサラウンドと逆だ)。
 それが終わるや、こんどは前方の福音史家が歌い出す、といった前後の変化で、劇的な表現をつくりだしています。

 以上は前半からの抜粋ですが、全編を通じて、前後に分かれた2組の合唱とオケがおりなす「マタイ受難曲」は、
 1 各曲のメリハリがついて、聴き通しやすい
 2 前後の音(合唱とオケ)を聞き分けるのが楽しい
 3 ドイツ語はわからなくとも、このほうが二つに分かれた意味を感ずる
 と、今までにない体験でした。

2チャンネルではどうなるのか

 では、このサラウンドが、2chではどうなるか?
 後方は距離感のある音ですから、2chで左右に2組を並べるとすれば、音響処理をするしかありません。
 聴いてみると、2chでも後ろの合唱の遠近感は同じでした。
 つまり、後ろのパートは遠近感のある音で出てきます。2組が左右配置ではなく、1組がより奥におさまる感じです。
 これまでの左右配置と違いますが、あらためて音響処理をするのは大変だったのでしょう。サラウンドをそのまま2chにミックスダウンした感じです。本作はサラウンドのほうが真価を発揮します。

演奏もすばらしい、リュートが加わったのもいい

 サラウンドのことばかり書きましたが、演奏も素晴らしいです。
 音は厚め。テンポもどちらかと言えば遅めです(リヒターよりは速いですが)。感情的なところでの、オケの迫力もかなりあります。
 合唱もソプラノとアルト・パートは、当時のように少年合唱を起用。
 あと、初演時にあったらしくリュートを加えているところも効果があります。リュートが鳴ることで、ちょっと彩りのある、ロマンチックな「マタイ」になっています。


Johann Sebastian Bach
Matthaus Passion

Rene Jacobs

2013.11.27