安全地帯 安全地帯ベスト 第2弾(アナログレコード) |
文・牧野良幸
ステレオサウンド(Stereo Sound)から安全地帯のベスト盤のアナログ第2弾が発売された。
発売の経過を簡単に書くと、2019年にステレオサウンドは10曲入りのアナログレコード『安全地帯ベスト』を先行発売する(レビュー)。
その後SACDハイブリッド『安全地帯』が全18曲で発売になると、「LPに未収録だった曲をアナログレコードで出してほしい」という要望が多数寄せられたのだそうだ。
その要望に応える形で第2弾のアナログレコードが発売されたのである。収録曲は最初のLPに収録されなかった、SACDハイブリッドのトラック10からトラック17の8曲。加えてSACDハイブリッドにも未収録だった「瞳を閉じて」と「オレンジ」の2曲を追加した全10曲。
しかしSACDののマスター作業とアナログレコードのマスター作業は異なる。SACDのために制作されたマスター音源は使えないため、今回のレコードの制作のために、再びユニバーサルからアナログマスター・テープを借り受けての作業になった。
その詳細は黛健司氏のライナーノーツに詳しいが、テープの再生機を1曲ごとに調整したり、アナログ・テープをあらかじめ加熱除湿してトラブルを防いだりと、いろいろとご苦労があったようだ。
本作にはアナログ録音だけではなくデジタル録音の音源も4曲収録されているので、それらも最適な方法でアーカイブされた。かくして音源は武沢 茂氏によってカッティングされ、メタルマスターからダイレクトプレスされ180g重量盤LPが製作された。
1曲目の「Juliet」はオープニングにふさわしい曲。SACDハイブリッドでは15曲目に入っているが、これを第1曲に持ってきたセンスが素晴らしい。
もともとは1987年末に発表されたシングルで、88年のオリジナル・アルバムのA面3曲目に収録された曲だが、まるで本作のオープニングのために作られた曲みたい。
しかし、2曲目以降も次々といい曲が出てくるので、「そう言えばこれはベスト盤だった」とあらためて思った次第。僕は安全地帯はほとんど聴いてこなかった人間だから、収録曲を最新の音楽のつもりで聴いていたのだった。
アナログレコードの音は間口が広くて伸びやか、と言えるだろうか。湧き出る渓流の水のように、奇麗な音が伸びやかに出る。玉置浩二のヴォーカルは引き立つし、バンドの演奏も太く、リズミックな部分では弾けるような弾力がある。
聴いている分にはアナログ録音とデジタル録音の差を、まったくと言っていいほど感じない。2010年発表の「オレンジ」はさすがに80年代の曲と音作りにおいてテイストの違いを感じるが、音質の違いというほどにはならない。それだけマスタリングやカッティングの作業が素晴らしいということだと思う。
おそらく、ほとんどのリスナーがこのレコードで玉置浩二のヴォカールに魅惑されると思う。どの曲も絶妙の“サビ”、絶妙の“泣き”の部分があって、玉置浩二があの声で歌い上げるとジワっとくるのだ。
レコードはB面も終わりに近づいた。コンサート映えしそうな「I Love You からはじめよう」でグッときたあとは、ラストの「オレンジ」。これも絶妙のサビを含むいい曲で、カッティングはレコードの最内周なのにクリアな音。
レコードは最後までいい音で終わってくれると気持ちがいいものだ。「また取り出して聴こう」という気になる。本作もそんな1枚である。
2020年3月9日