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SACD アート・ガーファンクル
Breakaway(愛への旅立ち)

アート・ガーファンクル/Breakaway
vocalion / SACDハイブリッド/ 2ch&マルチチャンネル

Tower Records
Amazon

文・牧野良幸

アート・ガーファンクルの名作『Breakaway』が2018年にSACD化

アート・ガーファンクルの2作目のソロ・アルバム『Breakaway(邦題「愛への旅立ち」)』がvocalionによってSACDハイブリッド化されたのが、今からちょうど2年前の2018年。その時はファースト『Angel Cleare(邦題「天使の歌声」)』も同時にSACD化され、そちらも大変素晴らしいものだった。SACDラボの読者さんからも絶賛のメールをいただいた。

そこで今回は『Breakaway』のレビューを書いてみたい。これも『Angel Cleare』に劣らず名作である。

『Breakaway』は1975年に発売されたセカンド・アルバムだ。世界中のS&Gファンが待ち望んでいた『天使の歌声』と違って、ファンの熱はファーストほどではなかったかと思う。『天使の歌声』がわれわれが抱くアート・ガーファンクルのイメージ通りの仕上がりだったのに対して、『Breakaway』はジャケットからガーファンクルらしくない、と敬遠されたのかもしれない。

また1975年の洋楽シーンは、60年代から活躍していた大御所たちにとっても潮目となる時期だった。クイーンなど新しいアイドルでさえも過去のものとするディスコ、そしてパンクの登場まであとわずかである。


リマスターはMichael J. Dutton。QuadraphonicのリミックスはBill Schnee。

ファースト・アルバムよりも充実した選曲

僕も『Breakaway』は当時聴いていない。しかし『天使の歌声』と同じくらい評価の高いアルバムだ。それは今回SACDで聴いて、あらためて実感した。同時にQuadraphonicも素晴らしいサラウンドだと思う。

曲はどれもアート・ガーファンクルらしい世界を紡ぎ出す。『天使の歌声』がS&G時代のアート・ガーファンクルの印象を損なわないように、手探りしながら作った選曲優先のアルバムに感じたのに対して、本作は積極的に70年代のアート・ガーファンクルの世界を作り上げようとしたかのような選曲だ。ファーストよりも充実度は高い。

楽曲はどれもアート・ガーファンクルのために作られたのかと思うほどに、アートのヴォーカルに合っている。ブルース・ジョンストン作のビーチ・ボーイズの曲「ディズニー・ガール」など、アートが歌うとヴォーカルの深さにうっとりとする。

唯一、雰囲気が違うのはサイモン&ガーファンクルとして発表された「マイ・リトル・タウン」であろうか。同時期のポールのソロ作品にも収録されたこの曲だけは、二人の声が一体となるデュエットだから、アートの声を大きくフューチャーした他の曲とは趣が違う。それでもアルバムの折り返しと考えると、ここにあっていいと思う(LPではB面1曲目)。


アート・ガーファンクルが女性二人と写る意味深なジャケット。向かって右の女性が当時の恋人だという。アルバムを気に入ると、このジャケットが独特の風味を帯びてくる。

包み込むように上質なQuadraphonic

本作は2chも、マルチチャンネルのQuadraphonicも、どちらも素晴らしい。

2chはvocalionの他のSACDと同じく、音圧とかエッジをことさら強調しないマスタリングが好ましい。

Quadraphonicではフロントにゆったりとアート・ガーファンクルの声が広がる。ヴォーカルだけでサラウンド感を作り出しているような響きだ。そこにストリングスなどゆったりと流れる音が重なる。包み込むような上質のサラウンドである。

ギターなど耳に付くような楽器はリアになることが多く、フロントのヴォーカルを邪魔しないようになっている。「ディズニー・ガール」など、時にはドラムもリアになることがあるが、それも最初は気づかなかったほどにフロントのガーファンクルのヴォーカルに心奪われる。

アントニオ・カルロス・ジョビンの「春の予感(Waters of March)」でもボサ・ノヴァ調のギターが左リアに。それでも全体のサラウンド感は損なわれない。 先にちょっと感じが違うと書いた「マイ・リトル・タウン」も、Quadraphonicで聴くと2chの時よりはアルバム全体と馴染んだように聴ける。

『Breakaway』は2chで聴くことも多い。しかし2chで聴けば聴くほどに「Quadraphonicではどんな風になるだろう?」と思わずにはいられないだろうから、やっぱり両方が聴けると楽しいSACDである。

2020年1月16日

アート・ガーファンクル/Breakaway
vocalion / SACDハイブリッド/ 2ch&マルチチャンネル

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