僕にとって〈英雄〉は、第1楽章〈アレグロ・コン・ブリオ〉が「駿馬空を駆けるがごとく」突き進んでいかなければいけない。それを満足させてくれるのが、カラヤンの最初のベルリン・フィルとの〈英雄〉。幸いSACD化されているので、僕の愛聴盤になっていた。
で、「一生、このSACDかな」と思い始めていたところ、カラヤン盤と替えてもいい、というくらいのディスクが出ました。ヤルヴィ指揮の〈英雄〉です。
駿馬空を駆ける〈英雄〉の登場。
第1楽章、冒頭からグイグイいく。
この熱気は「マッテマシタ!」というものだ。
古楽器奏法を取り入れた、現代楽器での小編成オーケストラ。加えて、古楽器のティンパニ、トランペットを使用したおかげで、アクセントが鋭く、骨格の丸見えな、締まりのある演奏になった。
他の大オーケストラの演奏が“3ナンバー車”の走りとしたら、このドイツ・カンマーフィルハーモニーは”ポルシェ”の走り。軽やかなんだけど重みのある走り、です。
第2楽章の「葬送行進曲」もテンポは早め。
ここは僕、第1楽章とは反対に、ロマン派風にコッテリとやってもらっても構わないのだが、すっすっと進んでいくテンポ。でも先走りする感じはないから許せちゃいます。このテンポもアリだなあ。
残り第3楽章、第4楽章も聴きました。テンポのことばかり書きましたが、結局この〈英雄〉、演奏に込められた気迫がすごく迫ってくるところが良かったです。
第8番もいいゾ。2曲通して69分はすぐにすぎる。
カップリングの第8番もそんな演奏である。
ベートーヴェンの偶数番号の交響曲は“女性的な交響曲”というのが定説だ。
しかし、ヤルヴィ指揮で聴くと、第8番もかなり攻撃的な曲に思えた。こういう8番を聴いたのは始めてです。あのカルロス・クライバーにも通じる“曲を豹変させる力”がヤルヴィにもあるんじゃないか、と思ったくらい。
音はDSDレコーディングだから、SACDステレオでもバッチリ。
マルチチャンネルのサラウンドは、コンサートホールの雰囲気というより、前方のオーケストラを二まわりくらい拡大させるサラウンド。それでもティンパニの鋭い強打音など、反響が一瞬背後まで広がり、「空間もオーケストラの一部だなあ」と思った。
2006.6.23
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