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フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベートーヴェン:交響曲第9番二短調作品125〈合唱〉

録音1942年3月22-24日
会場Old Philharmonie, Berlin
オリジナル・メロディアのLPからの復刻
MONO

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ティラ・ブリーム(Soprano)
エリーザベト・ヘンゲン(Alto)
ペーター・アンダース(Tenor)
ルドルフ・ヴァツケ(Bass)

録音は当時のラジオ放送用に録られたものだそうです。フルトヴェングラーをめぐる当時のドイツ国内事情、録音機材などは、ライナーノートに詳しく書いてあります。

 思想家丸山真男は、フルトヴェングラーの戦時中のライヴを、「緊張感のある演奏」と高く評価していた。一方、戦後のLP(スタジオ録音)は「ゆですぎたうどん」とさえ言い切っている。
 そのフルトヴェングラーの戦時中ライヴがスーパーオーディオCDで発売された。音源は旧ソ連のメロディアのオリジナル・レコードからの復刻である。

戦時下のフルトヴェングラー

 第二次大戦中、フルトヴェングラーとベルリン・フィルの演奏は、ナチスによりラジオ放送用に録音されていた。録音に使われたのは当時最先端のマグネトフォン磁気テープで、60デシベルで20分録音できる画期的なものだったらしい。
 これらのオリジナル・テープは、ドイツを占領した旧ソ連軍によって、機材ともどもソ連に持っていかれてしまった。それをもとにソ連国内でLPにしていたのがメロディアである。
 噂だけであったフルトヴェングラーの戦時中の録音があると、西側にも伝わると、イギリスのユニコーンがそれらをLPにした。それから現在まで、いろいろなレーベルからフルトヴェングラーの演奏が発掘され発売されている。

オリジナルのメロディアのLPから復刻

 さて、このSACDは、そのオリジナル・メロディアのLPから直接音を録り、SACD/CDハイブリッドにしてある。いわば「盤起こし」である。1942年録音ゆえ、本家のオリジナル・テープは劣化でボロボロだろうと思われる。なので当時の雰囲気を一番伝えているのがメロディアのLPと言われている。

 LPから起こしたのなら、まず音質が気になるところだが、フルトヴェングラーの録音として、クオリティは十分なのでご心配なく。
 ヒスノイズや針音は、すごく微細で、これが気になる人はまずいないだろう。針音など、わたしのもっている70年代のレコードのほうが、よほど「ブチブチ」である。
 なので弱音もよく聴きとれる。ゴソゴソとステージ上の物音さえ聴き取れるほどだ。古いレコードであろうのに、よほど状態の良い盤から起こしたのだろうか。

 この音源はCD化されていると思うが、わたしは持っていないので、フルトヴェングラーの有名なバイロイトの第九のCD(ARTリマスター盤)と比べてみた。SACDは42年、バイロイトは51年の録音である。録音時代や環境がちがうため、両者比較はフェアでないが参考までに。

 オーディオ的に聴いた第一印象は、ほとんど同じ感じ。モノラルで「ああ、古い録音だなあ」と思うが、すぐに慣れて、演奏に引き込まれる。
バイロイトのほうがさすがに音のヌケがいいが、SACDのほうは、音にぶ厚さと暖かみを感じる。メロディアのLPの味がSACDでうまくでているのだろう。
とはいっても、本ディスクを聴いて「LPを聴かされているな」とは感じない。純粋にフルトヴェングラーの録音を聴いている感じである。
 ティンパニも迫力あるし、第四楽章の歌手の声は良く伸びているほうだと思う。さすがにフィナーレの合唱のテュッティはモコモコになるが、それはしかたのないことだろう。

戦時中のライヴ演奏の緊張感

 気楽にライヴ録音と書いたけど、戦時中である。ナチスの宣伝材料として、あやつられたようなフルトヴェングラー。自分たちの運命もどうなるかわからないベルリン・フィル。ベートーヴェンの音楽は、そんな状況でも、あたたかく、やさしく響くのである(第三楽章)。
 音楽がどんな状況でも美しいのは、まいってしまう。歌手達の肉声に、観客の咳の音に、「当時はどうだったのだろう?」と、いろいろ考えさせられる。
 この演奏を聴いた後は、他のディスクを聴くのをやめとこう、と思うのである。ハイファイではない。しかし耳をかたむけてしまう演奏であります。このシリーズは他にもあり、それも聴いてみたいものだ。

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2005.2.17