ポーランドの作曲家グレツキの、ソプラノとオーケストラのための作品
ヘンリク・ミコワイ・グレツキは1933年ポーランド生まれの作曲家です。この交響曲第3番は1976年の作曲。「悲歌のシンフォニー」というタイトルもついています。
グレツキの曲にはポーランドという国が、戦時中と戦後にくぐってきた大きな苦悩が色濃く影を落としているようです。
この交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」は、90年代にCDがすごく大ヒットし、外国ではポップチャートにまで登場して話題になりました。
そういうベストセラーって妙に反発してしまうわたしですので、その時は聴かなかったのですが、今回SACDで新録音が出ましたので、初めて聴いてみました。
交響曲といっても、ゆっくりと弦楽器が反復を繰り返し、少しづつ重なりあい(カノンでしょうか)、変化していく単純な語法。ミニマルな曲でした。
そこにソプラノの祈りのような歌唱が入る。歌詞は第1楽章が15世紀ポーランドの「聖十字架修道院の哀歌」。第2楽章は第二次大戦末期に独房にとらわれた18歳の女性が壁に書いた祈りの言葉。第3楽章は古い民謡で、戦いで息子を失った母親の言葉。
どれも切々と歌う。淡々としていて、爆発させない哀しみ。
時々和声の書き方で希望の光のようなところも出てくる。そして、最後は慰めを得られたように穏やかに終わる。
「ヒットチャートに入って、よく売れた」と聞いていたので、もっと通俗的な音楽かと思っていたが、間違っていたようだ。
現代音楽であるが、難解でなく、普通の人にも訴えるところがこの曲にあるのだろう。とはいえ世間が「癒し」と呼ぶたぐいの、軽い音楽ではない。
マルチチャンネルではひとつの体験
製作者のノートには「コンサートで聴いたような感動を再現するためSACDマルチチャンネルを収録した」とある(わたしのヘタな和訳でごめん)。
このSACDのマルチチャンネルは、クラシックのマルチでよくあるホールの臨場感というよりは、もっとサラウンドに徹した感じである。
右前方から静かに始まるバスの導入部から、だんだん弦が加わってくるにつれて、前方にオーケストラとソプラノは位置するものの、響きは部屋中に広がり、自分が包みこまれる。そして最後は消え入るように終わる。大げさに言えば、聴くというより、ひとつの体験にちかい。
普通のクラシックならここまでやれないが、このグレツキの曲にピッタリしているのは間違いない。
曲中、希望にみちた和声を、視覚的に天上から差し込む光のように感じてしまうことも。マルチではこの曲のムードに相当浸ってしまいます。
とにかく終わったときには、一瞬言葉がでない。さて、これをどう聴くか。聴いた人がそれぞれ感じればよいと思う。
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2005.12.4
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