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LP
小山実稚恵
バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988

小山実稚恵/バッハ:ゴルトベルク変奏曲

SACDハイブリッド
Stereo
DSD Recording
Sony Music Entertainment

Tower Records | Amazon

緻密なバッハの意図を味わえる小山実稚恵の演奏

『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』は小山実稚恵の初のバッハ・アルバムである。2017年2月、軽井沢大賀ホールでのDSDレコーディング。SACDハイブリッドで2017年にリリースされた。録音エンジニアは鈴木浩二氏。

バッハのゴルトベルク変奏曲というと、たいがいのクラシック・ファンが、最初のモノラル録音か晩年のデジタル録音かは別としてグレン・グールドの演奏を聴くことだろう。そしてたいがいのクラシック・ファンが“グールド以外”のゴルトベルク変奏曲も探し求めていると思う。僕もそうだ。

そんな僕が聴いているゴルトベルク変奏曲がこのSACDだ。2017年の発売以後、この3年間ならグールド盤より圧倒的に聴いている。

まず音質が最新のDSD録音だけあって、ナチュラルで暖かみがある。音場も心地よい広がりだ。しかし音質だけでずっと聴けるものではない。演奏も好きだからよく聴いているのだ。


ディスクには緻密なバッハの意図を表すかのような図形がデザイン。

僕はバッハの場合、器楽曲や宗教曲はどちらかと言えばモダン楽器よりも古楽器を好む。しかし鍵盤曲だけはチェンバロよりピアノの方を好むようになった。

ゴルトベルク変奏曲もそうで、現代ピアノのダイナミックレンジ、表現力は、バッハの時代から見ると明らかに過剰であるが、それをどうバッハの演奏として落とし込んでいくか。そこが僕の楽しみ方だ。

でもバッハの音楽もピアノでの演奏を許容している、というか意図しているようにさえに思える。ピアノだからこそ心に染みることが多いのだから。

小山実稚恵のゴルトベルク変奏曲も味わい深い。音の強弱、長短など考え抜かれたピアニズムは何度聴いても飽きない。

この曲に出会った時は(グールドの1981年録音盤が出た時だから40年近くも昔であるが)、30の変奏曲全部に注意を払うことができなかったのが、この小山盤にしてようやく聴き込めるようになった。

その一例として、30の変奏のうち3の変数の番号ではカノンが配置されている。カノンは一度づつ音域を広げていくよう書かれている。

しかし最後の第30変奏では10度のカノンがあると予想するところを「クォドリベット(Quodlibet:ラテン語で“好きなように”)」という曲を突然出現させる。この部分、いつも最終アリアの前に民謡調でかつエンディングみたいな曲が出てきて不思議だな、と思っていた。

この鮮やかな手法でバッハが訴えたのは民衆の声であり、人間の声である。小山実稚恵はライナーにそういった文章を寄せていて、ますます興味深くなった。そんなわけでこのSACDをよく聴いている。

2020年4月13日

小山実稚恵/バッハ:ゴルトベルク変奏曲

Sony Music Entertainment / SACDハイブリッド

Tower Records | Amazon

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