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チャールズ・マッケラス指揮スコットランド室内管弦楽団&合唱団
モーツァルト:《レクイエム》K.626(ロバート・レヴィン版)

ディスク
Sir Charlels Mackerras
Scottish Chamber Orchestra

Wolfgang Amadeus Mozart
Requiem in D minor K.626
ed. R.Levin


録音2002年
SACDハイブリッド
輸入盤、Linn

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普通のプラケースにブックレット。ブックレットにはレヴィンのライナー。今回の改訂のことをチョコチョコっと書いています。

改訂版ということを忘れて、レクイエムの感動に迫るマッケラスの演奏

 モーツァルトの交響曲のSACDが好評なマッケラスは、すでに《レクイエム》もSACDでリリースしているのでご紹介します。
 この《レクイエム》の特徴は、なんといってもロバート・レヴィンの改訂版を使用したことでしょう。作曲から200年以上伝わってきたジェスマイヤー版との違い。興味しんしんでありながら聴くのが怖い、モーツァルティアンの自分がいます。
 しかし、いざ聴いてみると「興味と不安」は消え去り、音楽に引き込まれてしまいました。マッケラスの演奏がいいんですね。

 《レクイエム》前半はモーツァルトが最後に到達した深淵と魔力の音楽。宗教曲のもつ敬虔さも、もちろん感じますが、それよりも日本人としては、純粋音楽として至高の感動を受けます(モーツァルトの宗教曲は、世俗的または歌劇的な要素が強いので、こういう聴き方をしてもあながち間違いではないと思います)。
 その《レクイエム》前半、マッケラスの演奏はシャープに進みます。ここは「深遠さ」を届けてくれる演奏家が多いなかで、あっさりと描写していくやり方は珍しいと思いますが(テンポも含みをもたないキビキビしたもの)、こういう《レクイエム》もすごい感動を味わえました。
 たとえば「Recordare」は震えるような感動をおこす部分ですが、これもテンポが早くても同じ感動。
 スコットランド室内管弦楽団も現代楽器のオーケストラですが、古楽器風の厚みを排除したサウンドで、よかったです。

レビィン版の白眉「アーメンフーガ」

 レヴィンの改訂は、ジェスマイヤーの明らかなミスや未熟なところに多岐にわたって及んでいますが、リスナーとして一番違いを感じるのは「ラクリモサ(涙の日)」のあとの「アーメンフーガ」でしょう。
 「ラクリモサ」はモーツァルトの絶筆となった曲で、以降はジェスマイヤーの制作。最後は「ア〜メ〜ン」の一言で終わる。
 長い間、我々が聴いてきたこの部分、もちろん素晴らしいと思っていて 「ああ、モーツァルト、死んでしまったよ」と誰もが《レクイエム》のなかでひと区切りつけるところでしょう。
 その感傷的にひたりたい部分で「ア〜メ〜ン」と終わらず、「アーメン、アーメン」の躍動するフーガが始まるのですから、まるでモーツァルトの遺体が立ち上がって踊っているようであります。
 もちろん、この改訂は根拠のあるもの。
 1960年代に見つかったモーツァルトの草稿から、モーツァルトはこの部分にアーメンのフーガを入れようとしていたのが分かったのでした。期限までに完成させる必要があったジェスマイヤーは、それをカットしたと推測されるのです。

 未完に終わった《レクイエム》は、ジェスマイヤー版が歴史的には「本物」。現代の改訂版は「仮定」にすぎない、と個人的には思っています。
 しかし改訂版も聴いてみる価値はあり、それを聴く特権が現代人には与えられていると思います。
 骨までジェスマイヤー完成の《レクイエム》が染み込んでいる我々には、改訂版を“耳で”受け入れるのは大変でしょうが、このマッケラスのSACDでは不自然さがまったくない演奏で聴けます。
 あと「ベネディクス」最後の「ホザンナフーガ」での、ジェスマイヤーがおこたった転調処理もうなずけるものがありました。確かに、このほうが落ち着く感じがします。

マルチチャンネルは、ホールトーンのなかでの、とてもいい響き

 本作はマルチチャンネルで聴いてみました。高音質レーベルLINNだけあって、なかなかよい響きがリスニングルームに広がります。
 ある程度距離を置いた響き。ホールトーンを含んでいますが、後方に回り込む音は無色透明で、前方で聴かせるタイプです。
 それでもオーケストラと合唱団という大所帯の音を、奥行き感のある音に感じられるのは、マルチチャンネルの恩恵だと思います。
 合唱が歌い上げる音のつまった空間と、独唱者だけのぽっかりあいた空間の違いもリアル。マルチチャンネルはやはりいいですね。

 《レクイエム》のあと「アダージョとフーガK.546」という名曲も併録されていますが、こちらは弦楽だけの編成で、音も《レクイエム》よりは接近したとらえかたです。サラウンドも《レクイエム》の時とちがって、後方に残響音が回り込む。
 ちょっとこれは響きすぎかな、と思いますが、まあ曲がいいし、8分ほどですのでOKとします。《レクイエム》のマルチチャンネルのほうが好きですね。

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マッケラスのモーツァルトSACD
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2010.2.6