レビュー

ワーグナー:楽劇『ニーベルングの指環』全曲
ピエール・ブーレーズ、バイロイト祝祭管弦楽団

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ワーグナー:楽劇『ニーベルングの指環』

ピエール・ブーレーズ/バイロイト祝祭管弦楽団

ブルーレイ 5枚組
日本語字幕入り
DG Deutsche Grammophon

文・杉田ヨシオ 2022年8月19日

ブーレーズとシェローの歴史的上演がブルーレイボックス化

1976年のバイロイト100年周年、ピエール・ブーレーズの指揮、パトリス・シェローの演出でセンセーショナルを起こした『ニーベルングの指環』がブルーレイ化された。これまでレーザーディスク、DVDで発売されてきたが、今回ブルーレイ化され、ボックスで一挙発売である。

ブルーレイ化にあたり映像はHDリマスタリング。音源はサラウンドのDTS-HD Master Audio 5.1と、24bitステレオPCMを収録している。

ボックスには本編4枚とメイキングが1枚。ディスクは紙ジャケットに入っている。あと簡単なブックレット。ボックス自体はコンパクトだ。『ニーベルングの指環』全曲セットというと、LPレコードやCDでの大きく重い箱を思い浮かべる筆者としては、あっけないくらいに軽い(笑)。

日本語字幕入り。場合によっては縦書きで画面の横に表示

しかしこの中に長大な『ニーベルングの指環』全曲が入っている。それも映像と高音質の音源で。そして何より輸入盤なのに日本語字幕が入っているところが嬉しい。

まず字幕について。昔の映像なので画面は4:3だ。ブルーレイでは左右に黒い余白が入る。日本語字幕は基本、下に横書きで表示されるが、画面の下部に登場人物が映る時は(歌手が床に横たわっているなど)、歌手を隠さないように、字幕は左か右の余白に“縦書き”で出る。この配慮は嬉しい。

音声はサラウンドが優先となっている。2ch PCMで聴きたい場合はメニュー画面で選ぶ。日本語字幕もメニューで選べる。

映像はビデオ収録であるが、プロジェクターによる大画面でも不満のないクオリティだった。

サラウンドは前方にあるオーケストラの音や歌手の声が、リスニングルーム全体に広がる感じ。人工的な感じはなく、自然に包まれる感じだ。

2ch PCMは前方からの音であるが、会場の残響もそれなりに含む音。2ch特有の音の構築感とライヴ感のバランスがちょうどいい。音質も硬質感が取れた質の良いデジタルという感じ。こちらも好感が持てた。

意外なことに、これだけの名盤がCDは現在廃盤のようだし、初期デジタル録音ゆえにSACD化もされていない(どこかがSACD化するのでは、と期待しているのだが……)。ブルーレイでは音源が24bitで収録されていることは嬉しい。

精緻なだけでなく、迫力も十分なブーレーズの演奏

ブーレーズの演奏であるが、この録音はかつてCDで聴いたことがあって、CDの印象ではブーレーズらしい洗練された響きで、“聴き疲れがしないワーグナー”として好感を持ったものだ。

それはこのブルーレイでも印象は変わらないが、ただ洗練された響きだけではなく、ウネリもあれば、劇的な場面での迫力も十分なことを今回知った次第である。 映像があるからそう思うのかもしれないが、「ブーレーズ、結構パワフルだな」と思うところがたくさんあった。


ボックスの中は本編4枚のディスク。1枚のメイキング。ブックレットには収録時の様子の写真も掲載。歌詞はない。

当時は物議をかもしたが、今では演劇的構成を感じるシェローの演出

このバイロイト公演は1976年から1980年に行われた。最初その演出が物議を醸したらしいが、公演が終了するころには好評を博したらしい。

映像の収録製作は1980年に行われている。当初物議をかもした演出も、2022年の今日見ると違和感はない。歳月が経ち、現代の「読み替え」が主流の演出と比べると、親しみやすいとさえ言える。現代のバイロイトの演出(毎年NHKの放送で見る限り)に比べれば、ストレスなくワーグナーの楽劇を見て聴いて楽しむことができた。

シェローは演劇畑の人らしく、ワーグナーの作った物語を演劇的な舞台に落とし込んでいると思う。古代の神々の世界ではないが、19世紀ワーグナーの生きた時代設定が不思議と合う。女戦士ワルキューレも武具をつけているし、押さえるところは押さえてある。

美しいギネス・ジョーンズ、勇者が似合うペーター・ホフマン

歌手の姿が見えるのはやはり映像ならではだ。映像ではやはりビジュアルも気になってしまう。筆者の印象に残ったところでは、やはりブリュンヒルデのギネス・ジョーンズ。歌もさることながら乙女の雰囲気を醸し出している。特に横顔の美しさは絵になると思った。

ジークムントを歌ったペーター・ホフマンを映像で見られて嬉しい歌手だ。オペラだけでなくロックも歌っていたというペーター・ホフマンだけに勇者の姿が似合う。歌、ビジュアルともにぴったりだと思う。

ジークフリートを歌うマンスレッド・ユングは、ペーター・ホフマンに比べると、やや幼さを帯びたヘルデン・テノールだが、天真爛漫な若者で最後は敵の策略で命を落とすジークフリートに合っていると思った。ジークリンデとグートルーネを歌ったジャニーヌ・アルトマイアーも存在感があった。

メイキング映像もディスク5として入っている。これだけのセットがブルーレイで見られるのだから満足である。


ディスクが入っている紙ジャケの裏。

収録内容

  1. Disc1『ラインの黄金』全曲
  2. Disc2『ワルキューレ』全曲
  3. Disc3『ジークフリート』全曲
  4. Disc4『神々の黄昏』全曲
  5. Disc5『メイキング』
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ワーグナー:楽劇『ニーベルングの指環』

ピエール・ブーレーズ/バイロイト祝祭管弦楽団

ブルーレイ 5枚組
日本語字幕入り
DG Deutsche Grammophon

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