クロスオーバー黄金時代
文・牧野良幸 2022年5月16日
新たにオリジナル・アナログテープから製作
ステレオサウンド(Stereo Sound)から『クロスオーバー黄金時代』がアナログレコードで発売になった。33回転180グラム重量盤2枚組である。
本作は日本のフュージョン黄金期における名演名曲を、オーディオ評論家の小原由夫氏が選曲、構成したアルバム。音源は1970〜80年代のビクターの録音から選りすぐっている。
ステレオサウンドは同タイトルを2019年にSACDハイブリッドで発売した。それが新たにアナログ・レコードで登場したわけである。
と言っても音源はSACDで使用したDSDのマスターの流用ではない。本作はあらためてビクターのオリジナル・アナログテープから制作されたレコードなのである。そこが大注目だ(例外は、もともとデジタル録音の「ハイ・プレッシャー」とテープコンディションの問題からデジタル・アーカイヴを選択した「ウィズ・アワ・ソウル」の2曲)。
マスタリングはPiccolo AudioWorksの松下真也氏が行い、テレフンケン製テープレコーダーとスカーリー製カッティングレースによって製作された。
昔の印象を覆すアナログ・サウンド
オーディオ・ファンはアナログ・レコードに、厚みがあって彫りの深い音を期待するものだ。特にジャズやフュージョンのレコードでその期待は大きい。
本作はそんな期待をさらに上回るアナログ・サウンドが飛び出してきた。フュージョンは明るいサウンドだから、その傾向はあるのだが、それにしてもここまで彫りが深くて粒立ちの良い音が聴けるとは思わなかった。
サックス、ギター、ベースからドラムの細かい音まで粒立ちが良い。輪郭はくっきりと、そのそれぞれが太く厚いのだからカイカンである。
カッティングはSideAのみ4曲で、残りのサイドは3曲という余裕のカッティング。音源を最大限に音溝に収録していると思われる。
アルバムの最初と最後に収録された渡辺貞夫の2曲は当時FMラジオで耳にし、阿川泰子「センチメンタル・ジャーニー」もLPで聴いていて知っていたが、このレコードでは昔の記憶を覆す音だった。
ナベサダの「モーニング・アイランド」と「マイ・ディア・ライフ」はFMでは軽やかなイージー・リスニング調として捉えていた。しかしこのレコードで聴くとオーディオ的魅力が満載の名演名曲となる。当時のFMでそれが見抜けなかったこちらの責任であるが、今回のように高音質レコードで聴くと曲の印象がガラリと変わると知らされた。
阿川泰子の「センチメンタル・ジャーニー」も当時は“美人ジャズ・シンガーの話題盤”という気持ちでLPを聴いていたから、やや物足りなさを覚えたものであるが、それは誤解だった。このレコードのようにいい音で聴くと、バンドのサポートが素晴らしく、阿川泰子のヴォーカルも実に味わい深い。
ヴォーカルで魅惑されたのは秋本奈緒美が歌う「サイレント・コミュニケーション」や中本マリが歌う「ステイ・クロース」でも同様だ。ヴォーカルの立ち上がりがいいこともこのレコードの特徴だと思う。
他にもネイティブ・サンの「スーパー・サファリ」、日野皓正の「ジェントリー」など、いい音といい演奏が直結した曲ばかり。個人的に今まで知らなかった名演奏に出会えたのもこのアルバムのおかげである。アナログ・サウンドにどっぷり浸りたい人、日本の代表的フュージョンをコレクションしたい人におすすめだ。
LP1 Side A
- モーニング・アイランド/渡辺貞夫
- キーピン・スコア/イッツ
- スーサイド・フリーク/松原正樹
- センチメンタル・ジャーニー/阿川泰子
LP1 Side B
- ハイ・プレッシャー/マルタ
- サイレント・コミュニケーション/秋本奈緒美
- スーパー・サファリ/ネイティブ・サン
LP2 Side C
- ステイ・クロース/中本マリ
- ソープ・ダンサー/山岸潤史
- ジェントリー/日野皓正
LP2 Side D
- サンバースト/サンバースト
- ウィズ・アワ・ソウル/本田竹曠
- マイ・ディア・ライフ/渡辺貞夫