KIMIKO ITOH
FOR LOVERS ONLY

1986年発売
国内盤、ソニーミュージック
SACDハイブリッド
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普通のプラケースにブックレット。ブックレットには、オリジナル盤発売時のケフラ・バーンズのライナー(英語)とその日本語訳。歌詞と対訳。
ボーナストラックが1曲つく。オリジナルどおり「For all we know」で、ビシッと簡潔にアルバムを終了してくれるほうが好ましいですが、マイケル・ブレッカーのサックスも聴けることだし、アンコールとしていいかも。ボーナストラックは、そのときの気分しだいで。
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伊藤君子のストイックなヴォーカルの世界
本作は日本を代表する女性ヴォーカル、伊藤君子が1986年に発表したアルバム。SACD化にあたりマルチチャンネルも制作されています。
本作は初のN.Y.レコーディングです。そして収録曲はすべてバラード、でも個人的には、バラードというより「ミディアム・スロー・テンポ」の曲と言いたいです。
というのも伊藤君子のヴォーカルは、〈感傷的〉なところや〈これ見よがしに歌い上げる〉感じがしないからです。表面的なところではなく、内面を切々と歌い込んでいく。これがアルバムの最初から最後まで一貫して続き、心うたれました。
次回作『フォロー・ミー』のライナーに、このレコーディングを「余分なものを、そぎ落とせるだけ落とした」という彼女のコメントが紹介されていますが、確かにそのとおり。
英語もうまいし、ジャズというジャンルに収まらないヴォーカルにも思えました。彼女の歌を聴いていると、ポップスの満足感も憶えました。また、どこか自分のなかの「和」と「洋」の両方の感覚が満たされるのも不思議です。
バックミュージシャンには、スティーブ・ガット、エディ・ゴメス、マイケル・ブレッカー、日野皓正。アレンジは佐藤允彦とそうそうたるメンバーが参加しています。
しっとりとしたプラネタリウム型サラウンド
本作はデジタルレコーディングですが、SACDではアナログ録音と思うような厚みのある音です。
マルチチャンネルは〈プラネタリム型サラウンド〉というべきもので、夜空の下にいるような空間が、このアルバムのムードにピッタリです。
特に佐藤允彦のストリングスを中心としたアレンジが、マルチチャンネルでは極上です。リスナーの背後を覆い、忍び寄るストリングスは一つの世界を作り上げ、消えていく。
このアレンジは余計な装飾のないストイックなもので、よくある「○○・ウィズ・ストリングス」のそれとは、一線を画していると思います。ときおりかぶさるサックスやフリューゲルホルンがひきたつ。
伊藤君子のヴォーカル共々、しっとりと夜に聴きたいアルバム。サラウンドならなおさらムード満点。昼間なら、白昼夢の世界に導いてくれそうでもあります。
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伊藤君子のSACD
 2010.6.6
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