安全地帯 安全地帯ベスト |
安全地帯の『安全地帯ベスト』がステレオサウンド(Stereo Sound)によりアナログレコードで発売された。
これはステレオサウンドが独自に、本格オーディオシステムで聴きたい10曲を選曲・構成したベストアルバム。本家レーベルのベスト盤とはまた違った、ステレオサウンドこだわりの10曲というところがオーディオ心をそそる。
収録曲は5枚のアルバムから選ばれているが、ユニバーサルミュージックが保管するアナログ・マスター(2011年作品「メロディー」のみデジタルマスター)を、スチューダーA80で再生したものを最終的にPCM96kHz/24bitでアーカイヴし、カッティングマスターとした。カッティングは日本コロムビアのチーフエンジニア武沢茂氏。
黛健司氏が書いたライナーの中で、デジタルをカッティング音源とした理由についてふれている。簡略に書くと、武沢氏が言うには「アジマスひとつをとっても、オリジナルマスターの状態がすべて違うので、1曲ごと繋いでも音質にバラつきが出てしまう。それなら1曲ごと完璧に調節した最高の状態で再生して、DAWにアーカイヴした方が、すべての曲が最良の状態で記録できる」とのこと。
他にもマスターテープの音をさらに魅力的に生まれ変わらせる作業や、録音エンジニアが意図したものへと近づける努力、最終のプレス用本番ラッカー盤への執念など、大変参考になった。また読んでいるだけで興奮した。
リスニングのプレーヤーはガラード301である。カートリッジはオルトフォンSPU♯1E。
現代のプレスによるレコードに針を落としていつも感激するのは、針音やノイズがほとんど聞こえないことだ。このレコードでもそう。現代のアナログレコードは無音から始まるのである。
音楽が始まった。サウンドはいかにも80年代ポップスらしいクリスタルな音だ。しかしベースやドラムなど、根底ではしっかりとしたアナログ感が支える感じがする。
何曲か聴いて思ったのは、60年代や70年代のアナログの音もいいけれども、デジタル時代と背中合わせだった80年代のアナログ録音(本作のマスターはデジタル化されているが)もまた、別の味わいがあるということだ。
60年代や70年代が豊満なレスラーのようなアナログ音としたら、80年代は、トラック走者のようなスピード感のあるアナログ音と言ったらいいだろうか。まずクリアな音や広いダイナミックレンジが耳につく。これを自分のシステムでどう再生するか、アナログファンなら腕がなるところだろう。
井上陽水とのデュエットとなる「夏の終わりのハーモニー」ではヌケのいい音場を実感した。ここでもシンバルの減衰音など細部の描写に優れていて、ハイレゾのような解像度。音の切れ込みも良い。アナログの実力は認めていたけれど、あらためて実感した。
そのアナログへの信頼がこのレコードではブレなかった。LPの内周に来ても歪みが抑えられ、クリアな音をキープしたからだ。
A面の最後は「夢のつづき」であるが、内周でもドラムやピアノは粒立ちが良い。最後の最後に現れる弦楽合奏の部分でも歪みが生じない。これも武沢氏の仕事のおかげだろう。“こだわりのアナログ”の実力を感じた。
安全地帯は、正直そんなに聴いてこなかったけれど、このレコードで聴くと味わいがまた格別である。玉置浩二のヴォーカルにも魅了される。曲もいい。
特別に制作されたレコードを手に入れ、いい音で聴くと、音楽にも新たな感動を覚える。こういう聴き方ができるのもオーディオ・ファイルならではだろう。
2019年9月25日