ビリー・ジョエルのポピュラーな代表作。
『ニューヨーク52番街』は今さら説明するまでもない、ビリー・ジョエルの代表作です。『ストレンジャー』に続く作品で、オリジナルは1978年の発表。
ビリー・ジョエルが最も脂ののっていた時期だけに、収録曲はアート性とポップス性が見事に調和している佳曲ばかりです。
冒頭の「ビッグ・ショット」のカッコ良さ。続く大ヒット曲「オネスティ」、さらに大ヒット曲「マイ・ライフ」。最初のこの3曲だけで、このアルバムの虜になることでしょう。
名曲はさらに続き、聴くごとに好きになっていく曲がラストまで並んでいます。終わってみれば『ニューヨーク52番街』は捨て曲なし。
あまりにポピュラーに売れたせいで、ビリーのそれまでの内省的なアルバムと比べて軽んじる傾向がありますが(筆者もそうだった)、聴いてみると、やっぱりこのアルバムは、どの角度から見ても隙なしの傑作だと思います。
マルチチャンネルは、オリジナルを損なわない広がり
『ニューヨーク52番街』は最初〈SACDステレオ〉としてリリースされました。
でも今回筆者が聴いたのはマルチチャンネル収録の再発SACDです。とはいっても、これも昔ゆえ、ハイブリッド盤ではなくSACD専用ディスクですが。
SACDにしては、音はソリッドです。昔のアナログ音源をSACD化した時にいつも期待する「図太いアナログ感」と「空気感」は、残念ながらこのSACDでは希薄です。
おそらくオリジナルがそうだと思います。70年代後半の録音ながら、80年代ポップスの、あの「硬質感」を先取りしたような音作りですから。
そのかわりマルチチャンネルの広がりは、大変気持ちいいです。
冒頭の「ビッグ・ショット」では、前方180度に広がる音作りで、リア方面に直接音はありません(残響音はあります)。
「おっ、前方中心でいくか。これもいいかも」と思って聴き続けるのですが、知らず知らず、音響が360度になっているのに気づきます。
それでも前方で音楽が鳴っている感じをそこなわれないのは、直接のサラウンド音を薄く施しているからでしょう。奇をてらうこともなく、オリジナルの味を損なわない聴きやすいサラウンドだと思います。
「アンティル・ザ・ナイト」はアルバムの大団円、見事にサラウンドに包まれて終わります……、と思いきや、本当の終曲はアルバムタイトルでもある「ニューヨーク52番街」なのです。
これで小粋に終わるのも、またいいですね。トータル40分ほどというのも、大変聴きやすいアルバムです。
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2009.3.26
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