チェイス Pure Music & Chase |
1970年代のはじめ、シカゴと並んでブラスロックの人気バンドだったチェイス(Chase)。本作はそのファースト『追跡(Chase)』と3作目にしてラストアルバム『復活(Pure Music)』の2タイトルが収録された2 in 1のSACDハイブリッドです。
ただSACDでの順番はラストアルバムの『復活』が前半で、後半にファーストの『追跡』が入っています。さらに2枚のアルバムともに、当時のQuadoraphnic(SQ4チャンネル)も収録。
若い読者の方はご存知ないかもしれませんが、チェイスはシカゴと同じくらい人気でした。
特に『追跡』が大人気で、シングルの「黒い炎(Get It On)」は当時のヒットチャートを賑わしたものです。瞬間風速ならシカゴをしのぐ人気だった気がします。
当時SACDラボは中学二年生でしたので、LPを買う概念などまったくなく、シングルの「黒い炎」を級友に借りて聴いたものです。
カッコよかった。なんと言っても4本のトランペットによるブラスが強烈でした。シカゴのブラスはトランペット、サックス、トロンボーンなので音色が溶け合っています。対してチェイスはトランペット4本ですから突き刺さるようなブラスでした。これがシカゴよりも玄人ぽく見え、チェイスのトレードマークだったのです。
さっそくSACDを聴いてみましょう。マルチチャンネルによるリスニングです。
1曲目からサラウンドが全開です。音は4つのスピーカーに満遍なく配置されております。楽器音が直に後ろのスピーカーにも配置されるサラウンドです。
それでも、サラウンドが散漫にならないところが素晴らしい。バッキングのブラスセクションが後方だったりしますが、音楽として揺るがないのは、リズム隊が前方でキープしているからでしょう。
それにしても、このQuadraphonicは音がよく動きます。ドラムのオカズ音を始め、色々な楽器が動くというか一周回るのです。それは『復活』も『追跡』のどちらも同様。トランペットやギターの合いの手とか、ドラムのオカズ音とか、すきあらば右回転で一周するのです。これほど音が動くサラウンドも珍しい。
しかし音が移動しても、それがチェイスの音楽のスピード感と合っているので、ぜんぜん安っぽくありません。当時の国内盤レコードについたキャップ(帯のようなもの)にはこんなコピーが書かれていました。
4本のトランペットが炸裂! 4個のスピーカーからほとばしるトランペットのハイ・ノートは君の耳をつんざき、ブラス・ロックのイメージを完全に粉砕!
今SACDでQuadraphonicを聴いてもまさにそのとおり。
特に後半に入っている『追跡』の1曲目「Open Up Wide」は、トランペットのソロが1本づつ、4つのスピーカーを移動していくところなど、当時聴いた人は「おお〜!」となったことでしょう。4チャンネルの教科書的なサラウンドです。
『追跡』は国内ではSQ4チャンネル・レコードしか発売にならなかったらしいので、レコード会社の方もSQ4チャンネルを売り出すため気合が入っていたのかもしれません。
ちなみにこの部分をSACD 2chで聴いてみると、2chの方はトランペットの音の移動はなく中央からガッツリと。2chは4本のトランペットが全部フロントのスピーカーから出るだけに、総じて迫力が出ます。このSACDは2chも楽しめます。
このように申し分ない内容ですが、できればファーストの『追跡』を最初に収録して欲しかった。でも『復活』もオープンニングの2曲がメチャカッコよく、アルバムとしても『追跡』に劣らず傑作。Vocalionがこちらを最初に収録したのも分かる気もします。
最後になりましたが、音質自体も好ましいです。これまでのVocalionのSACDと同じく、音圧を強調することなく、自然な仕上がり。
2019年5月5日