バーンスタイン、ハイブリッド盤による「大地の歌」
「大地の歌」はマーラーの中でも人気の交響曲でしょう(マーラーは交響曲と呼ばなかったらしいですが)。テノールとアルト(本ディスクではメゾ・ソプラノ)が中国の詩を歌い上げていくユニークな構成です。
このSACDは日本でのみハイブリッド盤で企画されたバーンスタイン/マーラー全集のひとつ。オリジナル3チャンネル・レコーディングから新たにミックスダウンして2ch、マルチチャンネルを制作したものです。バーンスタインの「大地の歌」は60年代にウィーン・フィルと録音したものがありますが、本作もいいなと思ったのでご紹介します。
大歌手ふたりをそろえての「大地の歌」
テノールを歌うのはルネ・コロ。芯のある明るい張りのある声はワーグナーむきのヘルデンテノールそのもの。テノールの歌う奇数楽章は勇敢で陽気な曲調ですので、ぴったりです。
偶数楽章のクリスタ・ルードヴィヒの声も少しオペラを思わせる芯の強さ。偶数楽章では諦念感が求められますが、これはこれでいい感じだと思います。
バーンスタインの「大地の歌」は、二人の歌唱もそうですが、ワルター盤ほど抒情的にならないところが聴きやすいと思いました。
個人的な考えですが、ワルターの指揮は諦念の淵をさまよう演奏で「大地の歌」の入門にいいでしょうが、それだけに聴き続けるのが、体力的につらい時があります。聴くのに覚悟がいったんですよね。
その点、バーンスタインの「大地の歌」は間違いなく時間は進んでいってくれます。63分、思ったより早く聴き終えてしまいます。いつもより早く終わったようで「あれ」と思うくらい。
録音は72年ですが、バーンスタインの演奏はのちのウィーン時代を先取りするような、「うねるのある感じ」が随所にあらわれて、そこも気に入りました。
昔の録音ということはわかるのに、最新録音のような満足感
オーディオ的にもこの「大地の歌」は気に入りました。72年録音ということで、バーンスタインの他のマーラーの演奏よりも録音が新しい。それが音質にもあらわれていて、弦はやや硬いかなと思うものの、管楽器、声楽はとても豊な音です。やわらかでふくよかです。
その弦にしても後半のほうでは、シルキーな瞬間もずいぶんと増えてきます。イスラエル・フィルというのは、弦の粒子が他のオーケストラより一段階繊細だな、という感想を持ちました。
マルチチャンネルがまた良くて、ステレオ録音をマルチで再現する良さがでています。ゆったりと広くひろがる音場。ちょっと天井が高い気配も感じる。
録音されたテル・アビブのホールのこまやかな残響があらわれるのもいい。このマルチチャンネルはサラウンドで擬似的に残響を出すのではなく、音そのものにそれが含まれている感じです。これはライヴで録音したのでしょうか、なんか空気に緊迫感がある気がしました。
とにかく72年の録音が、こんな音質で聴けるのはSACDならではと思います。聴いていて昔の録音とは分かるのに、最新録音と同じような音質で音楽を聴いているような満足感、そんなSACDです。
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バーンスタインのマーラーSACD
2009.11.9
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