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グレン・グールド
バッハ : インヴェンションとシンフォニアBWV772-801
ディスク


録音1964年
国内盤、ソニーミュージック
SACD専用ディスク、49分58秒

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ソニーからの初期SACDスタイル。正方形の紙デジパック仕様。

ブックレットには「触感の美学」と題された宮澤淳一氏のライナー(1993年著)。
角倉一朗氏による「インヴェンションについて」という曲目解説。

奇才グールドの代表作『インベンションとシンフォニア』

 グレン・グールドと言えば『ゴルトベルグ変奏曲』や『平均率クラヴィーア曲集』が有名です。でもこれらは案外、普通の演奏として聴けてしまいます。「この人、そんなに奇人なのかしら?」といぶかる人もいるかもしれません。
 で、グールドの奇才がもっともあふれているアルバムといったら、この『インヴェンションとシンフォニア』ではないでしょうか。

 バッハの「インベンションとシンフォニア」は2声(インベンション)と3声(シンフォニア)を、ハ長調から始まるすべての調で作曲した作品集です。
 通常、2声の12曲を演奏して、3声の12曲を演奏するのですが、グールドは同じ調性の2声と3声をまとめて演奏していきます。さらに調性の順番も好きなように変えています。つまりバッハの編んだ「インベンションとシンフォニア」を〈グールドの美学〉で再構築した感じです。
 教育的見地から批判もありますが、聴いてみると一つの〈作品〉として、実に理にかなった効果を出しています。バッハもこれには納得するのではないでしょうか。こんな所にメスを入れてしまうグールドの奇抜さ、です。

うなり声とピアノのきしむ音

 さらに奇抜なのは、うなり声。グールドの演奏中のうなり声は有名ですが『ゴールドベルグ変奏曲』よりもこちらのほうが、さらに際立っています。
 つぎに奇抜なのはピアノの音。チッカリングというピアノですが、チェンバロの演奏感、音色に近くなるよう、グールドによって手を加えられています。
 その改変が甘かったのか、打鍵後の伸びる音で「ウィヨ〜ン」と音程が揺れます。あきらかに整調不良のピアノですが、この効果が不思議な感触を憶えさせます。こんなピアノで録音するなどクラシックのレコードで1枚もないはずですし、グールドの他の録音に比べても、あきらかに特殊な音を出しています。
 これに対し、CBSとスタインウェイは不満があったようなので、グールドはライナーノートに、ピアノ改造の注釈と「そのままお待ちください、調整中です」で終わる一文を載せることになりました。
 もちろんグールドはこの音に満足していたと思いますけれども。
 あと、椅子がやたらときしむ音が入っている。これも『インベンションとシンフォニア』が、グールドの他の録音に比べて違う点でしょう。

グールドの天才的演奏が聴ける録音作品

 最後の奇抜さはもちろんグールドの演奏。
 「インベンションとシンフォニア」はピアノ初心者でも演奏するほど単純な曲ですが、シンプルな中に高密度でわかりやすい「バッハの素晴らしさ」が詰まっています。それだけにグールドの演奏の奇抜さが、クラシック素人にもよく分かります。
 ある曲は徹底して早く。ある曲は遅く。ある曲は機械的に。ある曲はメランコリックに。大胆にして繊細なノンレガート。変貌自在に1曲1曲に生命を与えています。
 その衝撃は同じグールドの『ゴールドベルグ変奏曲』の上をいくと思います。『ゴールドベルグ変奏曲』は、まあ、BGMとしても聞き流せそうですが、『インベンションとシンフォニア』は、「この人、なにやってるの?」と耳をそばでててしまいそうです。もちろん他の演奏家では物足りなく思ってしまうことでしょう。
 また『平均率クラヴィーア曲集』と比較しても、短いことで全調性を集中して聴ける利点があります。
 『インベンションとシンフォニア』は、曲の再構成のセンス、うなり声、椅子のきしむ音、改変されたピアノ、そして天才的演奏。それらが混在一体となった録音作品です。

SACDの音

 この録音はなかなか良いと思います。ヒスノイズもまったくないと思います。
 残響はほとんどなく、グールドのピアノが硬質なかたまりとなって鳴り響きます。SACDでは実の詰まったピアノの音。徹底的にグールドのピアノに寄りそって聴くことにしましょう。

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2010.6.10