THE MILES DAVIS SEXTET
JAZZ AT THE PLAZA
録音 1958年9月
国内盤、SME
SACD専用ディスク
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普通のプラケースにブックレット。ブックレットには藤本史昭氏のライナー(1997年CDリリース時のもの)。写真等なし。
オリジナルLPは、録音から15年後の1973年発売。
収録曲
1.ストレート・ノー・チェイサー
2.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
3.イフ・アイ・ワー・ア・ベル
4.オレオ
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『カインド・オブ・ブルー』のメンバーによるライヴ録音
本作は1958年ニューヨーク、ザ・プラザ・ホテルでのライヴ。コロムビア主催のジャズ・パーティーでの演奏です。
セクステットは、マイルスのほか、ジョン・コルトレーン(ts)、キャノンボール・アダレイ(as)、ビル・エヴァンス(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds)といった顔ぶれ。
『カインド・オブ・ブルー』と同じメンバーで、『カインド・オブ・ブルー』の半年前の貴重な記録とも言われています。
ちなみに本SACDはSTEREO。マルチトラックをステレオに振り分けたような気がします(いわゆる泣き別れ風のSTEREO)。
録音バランスが一部悪くとも、十分なアナログサウンド
さて『ライヴ・アット・ザ・プラザ』。
もともとレコードにするつもりはなかっようで、残念ながら録音に問題があり、それがこのアルバムを、マイルスの中でも地味なものにしています。
しかし、正確には録音状態が良好ではない(音が悪い)というよりも、「録音バランスが悪い」と言ったほうがいいでしょう。
その原因は、「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」「オレオ」の2曲で、マイルスのトランペットがオフになってしまっていること(マイクから遠くになっている)。あと全体的にピアノとベースが弱い。この2点だと思います。
しかしバランスは問題があっても、音質自体は1958年の良好なアナログ音だと思います。
コルトレーン、アダレイの両サックス、ジミー・コブのドラムはタップリとした音。マイルスのトランペットも「ストレート・ノー・チェイサー」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」ではバランス良く聴け、これらはSACDで聴く価値はあると思います。
バッキングでは弱めのビル・エヴァンスのピアノも、ソロではなんとか前に出てきます。
マイルスとエヴァンスの味の妙技
音に一部問題はあっても、本作は『カインド・オブ・ブルー』前夜の貴重な記録であることは間違いありません。
といっても、ここで演奏されるのは、『カインド・オブ・ブルー』の“静寂な”モード奏法はなく、むしろプレスティッジに残した“マラソン・セッション”や『マイルストーンズ』のようなジャズ。
パーティー向けなのでしょうが、それを“ビル・エヴァンスの加わったメンバー”でやる、というのがミソでしょう。
実際ビル・エヴァンスのピアノは、ソロになると、一人異質なインプロヴィゼーションで「おおお」と思わせます。
特に「マイ・ファニー・バレンタイン」は白眉で、まるで印象派のピアノ曲のようなエヴァンスと、そんなビルの才能を認めているマイルスのデュエット状態を堪能。マイルスのいくつかある「マイ・ファニー・バレンタイン」でも、これは好きなものです。
コルトレーンも忘れてはいけませんでした
コルトレーンもいいです。『カインド・オブ・ブルー』を飛び越えて、『ジャイアント・ステップス』の“シーツ・オブ・サウンド”状態。
1曲目「ストレート・ノー・チェイサー」での、コルトレーンとアダレイの両プレイを聴くと、「キャノンボール・アダレイも“シーツ・オブ・サウンド”と言ってでいいのでは?」と応援したくなるのです。
でも「イフ・アイワー・ア・ベル」のコルトレーンを聴くと、やっぱり、コルトレーンこそ“シーツ・オブ・サウンド”、すごく音が細かくなめらか!
この曲はマイルスも、(オフ気味の録音が惜しいですが)バリバリに吹きまくって、トランペット音のバランスの悪さを忘れさせてくれます。
こうみると、『カインド・オブ・ブルー』前夜というより、実体は、もうちょっと先の音楽もあらわれているよう思います。
本作を聴いて、プラザホテルのパーティ(拍手あり)という、どこかスノブな雰囲気と、こんな音楽をやっているマイルスたちとの対比を面白がるのは僕だけでしょうか。
このライヴの2ヶ月あと、ビル・エヴァンスはいろいろな理由でマイルスのグループを辞めます(マイルスの自伝によると人種差別とかいろいろあったみたいです)。
しかしマイルスは、次作の録音に2日だけビル・エヴァンスを呼び寄せます。こうして録音したのが『カインド・オブ・ブルー』でした。
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