録音:
マーラー1958年、
ウォルトン1959年、
ストラヴィンスキー1961年
国内盤、ソニーミュージック
トータル61分19秒
SACD専用ディスク
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普通のプラケース。
ブックレットにはクラウス・G・ロイの曲解説(訳:渡辺 正)。柴田龍一、藤田由之の曲解説。
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マーラーのドグマが感じられる正確な演奏
ジョージ・セルのSACDは良い音ですが、これもそんな1枚です。収録曲はマーラーの交響曲第10番から「アダージョ」と「ブルガトリオ」、ウォルトンの「オーケストラのためのパルティータ」、ストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」(1919年版)。
1曲目はマーラーの交響曲第10番から「アダージョ」と「ブルガトリオ」。「アダージョ」は、たいがいディスクの穴埋めで収録されるのが常ですが、冒頭に収録されたことで、がぜん聴く気もおきます。
「アダージョ」は交響曲第9番の流れをくむ厭世的な雰囲気。マーラーらしく単一楽章でもさまざまな曲想がでてきます。
マーラーは、たいがいの指揮者は表現主義的にねっとりと演奏しますが、セルはまるで、包丁でキュウリを切っていくように、スパっ、スパっと歯切れよく切り進んでいるようです。
もちろん、いろいろな表現を組み入れているのでしょうが、クリーヴランド管弦楽団のアンサンブル、縦の線があまりもピッタリしているせいか非常に明快な印象を与えるのです。和音もピッチがドンピシャなのか、横の線もクリア。たとえれば、二つの同じ画像が、数ミクロンも狂いもなく重なり合ったときのような快感を受けます。
でもこれくらい正確なほうが、マーラーのドグマが逆に感じられます。セルの演奏を聴くと「正確」が最も豊かな表現力であることを知らされます。
もうひとつの「ブルガトリオ」は交響曲第10番の第三楽章にあたる曲です。非常に短いが、これもマーラーらしい楽しく不気味な(?)、短い曲です。
ウォルトンとストラヴィンスキー
2曲目のウォルトンはイギリスの作曲家なので、上品な曲風かと思っていましたが、激しく派手な曲です。ハンガリーとか、民族的な国の曲のように思えてしまうところも。でも前のマーラーとあとのストラヴィンスキーをつなぐにはちょうどいい案配です。
最後の組曲「火の鳥」も同様。オーケストラのアンサンブルがピッタリ。よくブーレーズの演奏を分析的と言いますが、これも結果的に分析的に聞こえるから不思議です。
どちらもエモーショナルな曲ですが、襲いかかるように、うるさく感じない、これもまた鉄壁のアンサンブルのせいだと思います。
クリーヴランド管の鉄壁のアンサンブルと、SACDの相乗効果
オーディオ的には、大変良い音です。
最も古い「アダージョ」が1958年の録音とはとても思えません。これくらいの年代だと、いつも気になるヴァイオリンの高音域の硬さも、この録音では感じませんでした。音自体に実があります。
ヒスノイズも大音量にして、ようやく聴ける程度。それも微粒子のヒスノイズで、各音の周りにちょこっと現れる程度。同じ時期の録音のワルターのSACDと比べれば格段に少ない、というかほとんどないに等しいかも。
クリーブランド管の見事なアンサンブルとSACDの音が相乗で、良い効果をだしていると思います。
たとえばウォルトンの強烈な金管群のフォルテの動きも、きれいなひとかたまりとなり、クリアに他の音と分離される。SACDがさらにその周りに「空気感」を持って再現する、といった案配。
SACDを聴き終わったあと、ジョージ・セルが「いい音だったろ?」と言っているよう。セルはクラシックファンのためでなく、SACD愛好家のためにこの録音を残しておいてくれたのか、と思ってしまうほどです。SACD専用ディスクです。
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ジョージ・セルのSACDレビュー
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2010.6.19
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